ラヴィーナ STORY FOR TWO
クリスマススペシャル2002
“天使のいる風景”

3話

「CROSS」
作/サカイヒロト

出演/ 少年  植田浩輔(エビス堂大交響楽団
  アキ  春口智美(維新派)
  老人  腹筋善之介
  ハル  平野舞
 
  凍える深夜。星明かりのようにイルミネーションが遠く光る。
マッチをする音。携帯電話の向こうから聞こえる声。
少年 「ターゲット発見、ロックオン」
  マッチをする音。別の声が混線する。
アキ 「鉄のストーブ」
  マッチをする音。
老人 「世界は全部僕の家や」
  マッチをする音。
ハル 「ガチョウのロースト」
  マッチをする音。
少年 「決行は今から10分後」
  マッチをする音。
アキ 「クリスマスツリー」
  マッチをする音に重なって救急車や消防車のサイレンが鳴り響く…
翌日。駅を見下ろすケンタッキーの二階。喧騒の中テーブルに向かい合う少年少女。
少年 「でな!でな!聞けよ、凄えんだよ、撃っても撃っても起きあがってくんの、
死なねえんだもん、こう、ウアーウアーウアーってさあ」
アキ 「それゲームの話?現実の話?」
少年 「ゲーム。聞いてなかったのかよ。ゾンビ。凄えの。怖いの。…ウアーって感じ」
アキ 「全部ウアーじゃん」
少年 「言うんだよ、えてして?えてして人は。人はウアーで生まれ、ウアーで死ぬ…お。なんか深くない?これ」
アキ 「浅いね。大体ウアーって生まれない、人は」
少年 「そういえばさあ」
アキ 「聞けよ」
少年 「こないだのあいつもほら、言ってたっしょ、ウアーウアー。燃えながら」
アキ 「ゲームの話?現実の話?」
少年 「現実。ちゃんと聞けって」
アキ 「ていうか話コロコロ変わるから」
少年 「笑ったよなあ。慌てて飛びだしてきて。」
アキ 「…声、大きいよ、こんなとこで」
少年 「誰も聞いてないってば。みーんな、自分の話しか聞いてないって。そのチキン食わないの?」
アキ 「いらない」
少年 「貰っていい?サンキューニジュウハチ」
アキ 「シチ」
少年 「シチ。どうなったのかなあ?あの後。さすがにびびった、お前だって一緒だったじゃない」
アキ 「見てただけだよ」
少年 「共犯、共犯。大体さ、初めてっすよ。信じてくださいよう刑事さあん」
アキ 「刑事じゃないし」
少年 「マイスイートダーリン」
アキ 「彼女でもないし」
少年 「あれ?そうなの?じゃあ何で俺と今ここにいんの?」
アキ 「たんなる時間つぶし」
少年 「平日の午前中じゃん、学校行けよ」
アキ 「アンタもね」
少年 「正解。あ、今のみのもんたな。ミリオネアな」
アキ 「似てない」
少年 「でもびっくりしたよな、あんな早くパトカー来るなんて。ピーポーピーポーウーアーウーアー…」
アキ 「知らない。どうでもいい」
少年 「どうでもいいってねえ。わかってるけどやめられないんすよ、自分でも理由がわかんないんすよ、刑事さん。俺の中に悪魔がいるんすよ、ていうか犬に命令されたんすよ、ていうか社会が悪い、ていうか、ていうか現代の病っていうか」
アキ 「どうでもいい」
少年 「どうでもいいどうでもいいって、さっきからお前、俺なめてんのか…あ?」
  着メロが鳴る。
少年 「おっと、ごめん、携帯。(電話に向かって)メリークリスマース!フーアーユー?」
  喧騒ぴたりと止む。マッチをする音。少女の独白。
アキ 「インクみたいな色のコーヒーを飲みながら窓の外を見下ろせばマネキンみたいな人たちがベルトコンベアーで運ばれていく。1234…たくさんのマネキンがイルミネーションの中を運ばれていく。コーヒーのおかわりを頼む。味はしない。味は分らない。私には味覚がない。1234…マネキンの数を数えながらコーヒーを飲む。黒いインクが食道を流れ落ちていく」
  電車が走り抜ける轟音。
その前日。ざわめく駅ホーム。
老人 「アホか、何してんねん!」
ハル 「…ふぁ?」
老人 「…ふぁ?やないやろ、何考えとんねん」
ハル 「…飛び込んだらどんな感じかなーって思って」
老人 「どうなるもこうなるもガダルカナルもあらへん!死ぬ。それ以外あらへん」
ハル 「じゃなくて、どんな感じかなーって」
老人 「だから感じひんねん!地下鉄飛び込んだら人間は何も感じひん、アホか」
ハル 「そうかなあ」
老人 「そうや。アホか」
ハル 「誰ですか、おじさん」
老人 「誰て、誰て訊かれても困るけど。見知らぬ女子高生助けに来た見知らぬおじさんです」
ハル 「ありがとうございました、それじゃ」
老人 「どいたしまして…って待たんかい、こら」
ハル 「なんですか」
老人 「大丈夫なんか自分。もう飛び込んだりせえへんやろな」
ハル 「そんな、する訳ないじゃないですか」
老人 「してたやないか今」
ハル 「だからどんな感じかなーどんな気分かなーって思っただけなんで」
老人 「よう分らんけど、まあええわ。うちの家でそんなんされたら夢見悪いからな」
ハル 「うちの?駅員さんですか?ここの」
老人 「そんなん見えるか?」
ハル 「見えません」
老人 「そやろ。こんな格好した駅員おらへん。住んでんねん、ここに」
ハル 「…ああ」
老人 「…ああってなんや。あれやろ、ホームレスや思てるやろ?」
ハル 「だってそうなんでしょ」
老人 「ちゃうちゃう。僕の寝たとこがその日の僕の家や。この駅もそこの公園も。♪広いながらも楽しい我が家…って知ってるか?この唄」
ハル 「いえ」
老人 「あかん。ジェネレーションギャップ感じるわ」
ハル 「あの、もう行ってもいいですか。みんな見てるし」
老人 「行き行き。学校行き。言うてもこんな時間にここにおるいう事はあれか、さぼりか。まあ学校真面目に行ってもこんななるオッサンもおるしな、関係ないけどな。なに、苛められたりしてんの?」
ハル 「いや別に…」
老人 「ふうん、いやそれで飛び込もとしてたんか思てな」
ハル 「そんなんじゃないですから。ただなんとなくですから」
老人 「それが一番怖いわ。最近の子はなんとなくで飛び降りたり刺したりしおるしなあ。そうや、これあげるわ」
ハル 「…何ですかこれ」
老人 「チョーク知らんのか?ジェネレーションギャップやなあ」
ハル 「チョークは知ってますけど、そういう意味じゃなくて」
老人 「お守りや」
ハル 「…はあ」
老人 「反応薄いな。これは凄いんやで、魔法のチョークやで、普通のチョークやけどな、どっちやねん!…今のが一人突っ込みやで…なんか反応して」
ハル 「…もう…ええわー」
老人 「もうええわ。これでな、好きなこと描いたらええねん」
ハル 「何を」
老人 「何でも。なんとなくーをなんかあるーに変えたら飛び込んだり刺したりせえへん。心に浮かんだもん何でも描いたらええねん…なに笑ってんねん」
  ざわめきぴたりと止む。マッチする音。少女の独白。
ハル 「駅のホームに立てば隣の誰かのイヤホンからどこかで聴いたことのある曲が聞こえてくる。後ろの誰かから、斜め前の誰かから聞こえてくる。幾つもの曲が入り混じって、何の曲だかもう分らない。電車が止まりたくさんの人たちを吐き出す。同じ顔。同じ服。同じ匂い。違う。匂いがない。私には嗅覚がない。ホームには音楽が流れ続けている」
  チャイムが鳴る。
その翌々日。学校。その屋上。二人の少女。
ハル 「久しぶり」
アキ 「そっちこそ」
ハル 「でも学校来たってさぼってたら意味ないじゃん」
アキ 「そっちこそ」
ハル 「教室で会わずに屋上で会うなんて変なの」
アキ 二人、笑う。
ハル 「煙草持ってる?」
アキ 「はい。ライター持ってる?」
ハル 「マッチしかない」
アキ 「なんでマッチなんか持ってんの?」
ハル 「茶店で」
アキ マッチする音。
ハル 「鉄のストーブ」
アキ 「え」
ハル 「あったよね、なんかマッチ売りの少女で」
アキ 「ああ、お話でね」
ハル 「お話で。マッチするたびに見えるんだよねえ。鉄のストーブ、ガチョウのロースト、クリスマスツリー」
アキ 「怖いなアンタ、なんでそんな憶えてんの?」
ハル 「さあ。鉄のストーブ、ガチョウのロースト、クリスマスツリー…あれ?そんだけだっけ?もう一つ何かなかったっけ、最後に」
アキ 「だから知らないってば。死んじゃうんじゃないの、最後は」
ハル 「うん、最後はね。…『少女が何を見たのか、町の人は誰も知りませんでした。』って終わるの、確か」
アキ 「じゃあ分かんないんじゃん、結局」
ハル 「あれ?そうかなあ」
アキ 「そうでしょ、だって」
ハル 「だよね。分かんないもんねえ、心に浮かんだもんなんて」
アキ 「何それ」
ハル 「魔法のチョーク。貰った」
アキ 「誰に」
ハル 「さあ」
アキ 「何それ」
ハル 「好きなこと描いたらええねん、って。でも分らへんのですわ」
アキ 1本の線を地面にひく。
ハル 「マイナス」
アキ 「イチ。何か描いてよ」
ハル 「何を」
アキ 「何か。なんでも」
  1本の線を地面にひく。
ハル 「プラス」
アキ 「バツ。そっちから見るからだよ」
ハル 「バツか。バツバツバツー」
アキ 「あ、狂った」
ハル 「バツバツバツー」
  たくさんのバツ印で屋上が埋め尽くされていく。
アキ 「気ぃすんだ?アンタ時々わけ分かんなくなるから怖い」
ハル 「自分でもね…あ」
アキ 「どした今度は」
ハル 「十字架。いっぱい」
アキ 「…ホントだ。お墓みたい」
  青い空に白い煙草の煙が二筋、昇ってゆく。
ハル 「『少女が何を見たのか町の人は誰も知りませんでした』…何だっけかなあ…」
  マッチする音。讃美歌のような音楽、静かに鳴り響いて…。


おわり
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