ラヴィーナ STORY FOR TWO
クリスマススペシャル2002
“星のクリスマス”

第1話(2001年12月23日 ON AIR)

「ロケット」
作/久野那美

出演 腹筋善之介
  平野 舞
 
  しんと静まりかえった夜。人里離れた山奥の道路を、車が1台走っている。
道路沿いの広い敷地に女がひとり、夜空を見上げている。
女の姿を見つけ、車は道を引き返して近づいてくる。
向かってくるヘッドライトを、女は吸い寄せられるように見つめている・・・。
あの・・・
??
ルート117って、これですか?
??
あの・・・
  (呆然と、ヘッドライトをみつめている)
  男、車から降りてくる。
女の近くに駆け寄って。
あの・・・
え?
ルート117って・・・
117?
この道行ったら、合流するはずなんですけど・・。
・・・・・・
いや、もうとっくに合流してるはずなんだけど・・。
・・・・?
ここまできてもまだ見えないということは・・・・。あーあ。
  女、ふと我に返った様子。
間違ってます。
は?
どこかで間違っちゃったんですね。
・・・・はあ・・
どうして、間違っちゃったんでしょうね。
じゃあ、どっちへいけば・・・
さあ。
ええっ。ここは・・・・
このあたりには117は走ってません。その道路はずいぶん遠くまでいかないとないと思います。
ええっ!
どこへ向かってたんですか?
いや、町へ・・・
(ため息)そうですよね。
え?
イブの夜にこんな真っ暗な山奥に用事のあるひとなんていませんから。
いや・・
これでもね、いつもはもうちょっと明るいんですよ。
そうでしょうね。太い道路が走ってるし、さっき着た道には大きな建物もありましたよ。
療養所です。
ああ。
そこも今夜は空っぽです。クリスマスの夜はみんなうちへ帰るから。
ああ。どうりで・・
灯りがついてなかったでしょう。
ええ。
あなたの車は、私が今夜地上で見たはじめての灯りです。
ああ。
だからごめんなさい。ぼおっとしてて。まさか車が通るなんて思わなかったから、つい・・・、
え?
別の灯りかと思っちゃった。
・・・・・誰か・・・ここで誰か待ってるんですか?
・・・・待ってたんですけど・・・。今回も駄目みたい。
え?
どうするんですか?
え?
これから。
どうしようかな。
急いでるんじゃないんですか?
いや。特に約束があるわけじゃないし。
昨日まで仕事でろくに休みがとれなかったから・・
なんのお仕事?
本を・・・科学の本を作ってるんです。
ふうん。
クリスマスの夜に用事もないし、ひとりで過ごすのも寂しいから、明るいところへちょっと出てみるかと思っただけです。今日なら、町へ出ればどこも灯りが灯っていて、どこへ行ってもひとが集まっていて、賑やかだと思って。疲れたときって、灯りのあるところへ行きたくなるじゃないですか。
そうですね・・。
それが走れば走るほど真っ暗になってきて・・・
すみません・・・
え?いや・・だけど・・・・
だけど?
道に迷ってちょっと得したこともあります。
え?
これだけ真っ暗だとずいぶんたくさん見えるんですね。
・・・・・・
星がこんなに明るいとは思わなかった。
・・・・・
どうしました?
私・・・・・向いてないんですね・・。
は?
失敗ばっかりなんです。いつも。
あの・・・
ごめんなさい。ちょっと落ち込んでて。
そうでしょうね。
どうして?
だって、あんな暗い顔して空見てたから・・・。
暗かったですか?
ええ。
よく、声かけられましたね。人気のない山奥の空き地で暗い顔で空を見上げてる私に・・
あわててたんです。そうじゃなかったら通り過ぎてます。
・・・道間違えたからですか?
そうです。
・・・・・間違えると落ち込みますよね・・。
 
あなたも・・道を間違えたんですか?
いいえ。私は。私が間違えたのは道じゃなくて・・・。
はあ。
もう、嫌になるくらい長い間やってるのに・・・
はあ。
もう、びっくりするほど、気が遠くなるほど、長いんです。
はあ・・・・
なのに。にもかかわらず。また、おんなじ失敗をしたんです。
・・・はあ・・
だから・・・・。
  女、また悲しげに空を見上げる。男もそれにならう。
あの・・何を間違えたんです?
内緒ですよ。落ち込んでるからついうっかりしゃべっちゃいますけど、ほんとうは内緒なんです。
はい・・・
(ひそひそ)特殊なロケットを作って、打ち上げるんです。それが私の仕事です。
は?
明るく光るロケットを、空へ向けて。
それは、何ですか?宇宙開発かなにかの関係で・・・?
さあ。開発の目的は私にはわかりません。それは私の仕事じゃないんです。私の仕事は、十分な明るさのカプセルを作って、決められた軌道に沿って打ち上げることなんです。
・・・・・つまり、それが、うまくあがらなかったわけですね。
ええ。
そんなにしょっちゅう失敗するんですか?
ええ。
どうして?
わかりません。ちゃんと、軌道を計算して、それはもうものすごく綿密に計算して。重さや、材質や、いろんなものを吟味して、風の強さや、気温も記録して。慎重にタイミングもはかってとばすのに。いつも途中まではちゃんと、その通りに進むのに、いつも途中から、わけのわからない理由でうまくいかなくなるんです。
高度な技術の開発には失敗は付き物ですよ。
ええ。でも・・・・・
いつも同じ失敗をするわけじゃないんでしょう?
いつも同じ失敗をするんです。
え?
だから落ち込んでるんです。
どうして?
わかりません。
いや・・・それはおかしい。
どうして?
失敗の原因を探して、そのたびにちゃんと解決してるんでしょう?
いいえ。
どうしてしないんです?それって科学の基本じゃないですか?!
わかってます。
じゃあ、どうして?
探すものが、ないからです。
失敗したから、戻ってこないんです。
・・・・・・
飛んでいったきり、どうしてだか戻ってこないんです。いつも途中で行方不明になっちゃうんです。
・・・・・
いったいどこで何を間違ったのか・・。
・・・・
これまで、もう数え切れないくらいのロケットを、ここから打ち上げました。
・・・
どれひとつ、ちゃんと戻ってきませんでした。
・・もどってくる、はずだったんですか?
ええ。そのために、打ち上げるんです。
そのために?
いつ、どれだけのカプセルがもどってきてもいいように、場所を広く空けて待ってるんですけど。
はあ。だからここはこんなにだだっぴろいんですね。
ただ、広いわけじゃないんです。
・・・・・いや・・
いつ、戻ってきてもいいように・・・
それはわかりましたって。
  風。
で・・・・戻ってこなかったんですね。
ええ。
どこ行っちゃったんでしょうね。
ねえ。
探そうにも、そういう状態じゃ、難しいですね。
この空の向こうにちゃんとあるのに。
まあね。どこかに有るんでしょうね。
見えてるのに・・・
え?
あんなにはっきり見えてるのに・・・・(空を見上げる)
・・・・・・?
こんな静かな夜。空を見上げると悲しくなるんです。
・・・・・・?
あんなにたくさん。自分の失敗を目の当たりにするのはとってもつらいです。
  男、空を見上げる。満点の星(?)・・・。
あの・・・
あんなにたくさん。失敗しなかったら、あれはみんなここにあったはずなのに・・。
・・・・
そしたら、ここはもっとずっと明るくて。
あなたも道に迷ったりしなかったんでしょうに。
・・・・・
ごめんなさい。
  それから彼女は空を見上げ、星を数え始めた。
それは星の数ほどあるわけだから、たっぷり一晩はかかりそうだった。
  あれがみんなここにあったらどうなったろう、とふと思った。
イブの夜、町は色とりどりの灯りに包まれる。
町の灯りを反射して、夜空もうっすらと明るくなる。
空はほんのりかすんでそこには何も見えなくなる。
いや、十分に明るいところで、そもそも誰も空を見上げたりなんかしない。
ふと、去年の今日のことを想い出した。
空を見上げることなんて考えもしなかった。
明るいところへ行きたいとも思わなかった。
そこはとても暖かくて、とても明るかったから。
あのあと・・・・どこで間違ったんだろう。
だけど、もう原因を探すものがなかった。
あの人は行ってしまった。もうここにはいないのだ。
もし、打ち上げられた灯りがみんな地上へ戻ってきたらどうなるんだろうかと思った。
そしたらここはどうなるんだろうかと思った。
いや。
失敗は、これからも延々とくりかえされるような気がした。
原因を探し出して、解決するのが科学だ。
原因のわからないものは解決しない。それも科学だ。
これからも、ロケットはどんどん打ち上げられ、空の灯りはそのたびにひとつずつふえていくのだ。
とても科学的な理由で・・・。
彼女には悪いけれど、それはちょっと素敵な想像だった。

僕は車に戻り、来た道を戻ることにした。
真っ暗で手がかりのない道を。
自分がどこを走っているのか、朝がくるまでわからないだろう。
朝日が昇るころ、僕はどこへ続く道をどっちの方向へ走っているだろう?

シートに座り、ギアを入れ、窓からふと見ると。
ロケットの彼女はまだ星を数えていた。



終わり
閉じる