ラヴィーナ STORY FOR TWO
クリスマススペシャル1998
“愛の・恋の・想いの・夢の方程式“


第3話
「ローソク夜、一九九八。」
作/松田正隆

出演 遠坂百合子(惑星ピスタチオ)
  腹筋善之介

―夜。男女の前にはコタツの上のクリスマスケーキ。
  ろうそくが何本か、ともっている。
  ゆれる炎を前にして。

男   メリークリスマス。

女   メリークリスマス。

―間

男   消しいな。ローソク。

女   え?消すの。

男   消さへんの。

女   誕生日じゃないんやで。

男   あ、そっか。

―間

男   どないすんの。

女   歌、唄ってえな。

男   え?

女   クリスマスソング。

男   きーよしー。この夜ゥ~。ラララ~。
     ラーラァララァラ~。な~んとか~。ど~たら、こ~たら。

女   もうええわ。

男   じゃ・・・。電気つけよっか。

女   うん。

男   ・・・。

女   何。つけへんの。

男   きれいやな。思うて。

女   うん・・・。

男   食べるのもったいないな。

女   うん・・・。あたし、おなかへってへんから食べへんよ。

男   ええ~、おれも、さっき食べたとこやし、カレー。

女   何で、クリスマスにカレーやねん。

男   しゃあないやろ、残ってんのやから。

女   せっかく買うて来たのに。

男   そやから、もうちょっとしたら食べるがな。
     あ!なめんなや。

女   うわ、おいしい。

男   何でそんなことすんねん。

女   ええやないの。私が買うたんやから。

男   ・・・おいしい?

女   うん。

男   ・・・ほな、オレも・・・。(なめて)うーん、ほんまや、おいしい・・・。

女   ね。

男   うん・・・。(と、またなめる)

女   ちょっ、やめえな。きたないやろ。

男   何で。

女   そこは、あかん。

男   だから、何で。

女   そこは私が食べよ思てたとこやねん。

男   ・・・。何で、そんなこと決めんねん。

女   これ、えらぶ時から決めてたんや、雪ダルマんとこは、私がもらうて・・・。

男   かってに決めんなや。

女   ええやないの。私が買うたんやから。

男   お前な、それ言うたら、何でもゆるされるて思うてるんちゃうんやろな。

女   そうや。

男   これ買うたんが、そんなにえらいんか。

女   えらいんや。

男   もう、ええ。食べへん。絶対に食べへんし。

女   ええよ。食べんとき・・・。

―間。男ぶつぶつ、女ぶつぶつ。
―女、フーッと、ローソクを消す。


男   あ、お前。何、消してんねん。

女   ・・・。

男   もう、電気つけるで。

女   去年は停電やったんやな。

男   え?

女   去年のクリスマス・・・。停電して・・・。ローソクつけたやん。

男   あ、そうやった?

女   覚えてへんの。

男   そういうたら、そうやった気もするけど。

女   私の部屋やったんちがうかな。ケーキはなかったけど・・・。

男   ああ、そうやったかな。

女   何や、早いな。もう一年たったんやで。

男   うん・・・。・・・つけるで、電気。(と、立って)

―と、電灯をつける男

女   ・・・別に、何もない一年やったけど・・・
     それでも一年すぎたことに驚いてまうわ。

男   何言うてんね。

女   何もかわってへん。あんたも・・・私も・・・。

男   そんなかんたんにかわるわけないやろ。

女   ま、そやけど・・・。

男   ・・・。

女   あ、私ね。ここに来る途中で、蛇、踏んでもうたんよ。

男   え?蛇?

女   うん。びっくりした。・・・何で、こんなとこに蛇がおるんって思うた。

男   どこで。

女   そこの下の道。・・・しゅるしゅるしゅるっていきなり出て来て、ふんだんよ。
     ・・・ケーキ、おちそやった。

男   こんな時期に?

女   そうなんよ。それで、びっくりして・・・ふっと思ったんよ。

男   ・・・何を・・・。

女   あんたの顔、思い出せるやろか。

男   ええ?

女   こんな、思いがけず蛇を踏むようなことがあっても、ちゃんとあんたの顔、
     思い出せるやろか?

男   ・・・それで、思い出せたんか。

女   思い出そうとしてるうちに、この部屋に来てもうて、
     そしたら、あんたがそこにおって思い出す間もなく、あんたの顔を見てもうた。

男   何や、それ。

女   あ。あ。あ。・・・雪ダルマ・・・食べんといて。

男   ・・・。

女   もう、ほんま、食べんといてよ。

男   あ。

女   ・・・何?

男   雪や・・・。雪降ってきた。

女   ウソや。

男   ほんまやて。

女   何でわかんのよ。

男   ・・・静かになんねん。雪ふると・・・。

女   ・・・。

男   な。・・・静かになったやろ。

女   うん・・・。

―間。
と・・・雪がふっているのか?静かである。
音のない世界。声をひそめて女。


女   あ・・・食べんといて・・・あかんて・・・それだけは
     食べんといて・・・あかん・・・。・・・ちょっあかんて。

―雪が降る。

 
閉じる