ラヴィーナ STORY FOR TWO
クリスマススペシャル1998
“愛の・恋の・想いの・夢の方程式”

第4話

「臨時環状内回り 1998」
作/飛鳥たまき

出演/  高田祐二(三角フラスコ)
   平野 舞
  車掌・もしも捕り  腹筋善之介
 
・・・どうしてあの時・・・・・・・・・
           ・・・・・・・・・どうして・・・・・・どうして・・・・・・
  (電車のホームのざわめき。
どこからかジングルベルの音。
『もしも』『もしも』・・・・・・つぶやき、だんだん大きくなりながら辺りに満ちていく。
発車のベルが響きわたる。
男が息を弾ませ、駆け込んでくる。)
「(息をきらせて)ハア、ハア、ハア・・・・・・・・・ここ、いいですか」
「どうぞ」
  電車、出発。
男、シートに腰をおろす。やがて息遣い、静まる。
いつもと少し違う雰囲気に、男、車内をきょろきょろ見渡す)
「あのー・・・これ、港町、止まりますよ、ね」
「港町?」
「止まりませんか?」
「ええ、たぶん・・・」
「えっ?」
「たぶん・・・」
「十二番でしたよね」
「?」
「ホーム。この電車のホーム」
「いいえ、十三番」
「十三番?」
「ええ、たしか」
「十三番ホーム?・・・・・・ありました?あの駅に」
「たしか・・・」
「十三番ホーム・・・・・・十三番って・・・あったかなあ・・・」
アナウンス 「本日はご乗車ありがとうございます。この電車は、 『臨時環状内回り1998』です。『臨時環状内回り1998』です。・・・」
「ああ、臨時電車・・・」
「乗り間違えた?」
「ええ、そうみたいです。ぼくの電車、いつも十二番ホームだもんで・・・」
「いつも駆け込んでる?」
「(笑って)まあ・・・」
「一廻りすれば、元の所に帰りますよ。きっと・・・」
「そうですね。環状って言ってましたよね。覚悟決めました」
  (車掌、検札にやって来る。)
車掌 「おくつろぎのところ、失礼いたします。ウッフン
切符を拝見させていただきます。」
  (ざわざわと小さな動き。車掌、入り口から二人の前のシートまでやってくる)
車掌 「(前のシートの人に)はい、ありがとうございます。
(女に)切符を拝見いたします。」
「はい(切符を手渡す)」
車掌 「三つ又峠ですね・・・・・・峠はもう雪になっているそうです。
視界も悪くなっています。心静めて、じっくり、ゆっくり、
あせらないでお出掛けください。」
「ありがとう。あれこれ、迷わないようにします」
車掌 「はい、それがおよろしいでしょう。・・・お客様は?」
「ああ、俺、電車間違えたみたいで・・・」
「とび乗ったんですよ、この人」
「定期――港町行きの定期はあります」
  (男、ごそごそとぽけっとをさぐる)
車掌 「胸ポケット」
「えっ・・・・・・これ?」
車掌 「はい。それです。臨時環状『周遊券』ですね。三十一日まで有効です。
ご利用ありがとうございます・・・はい」
  (車掌、次のシートへ行く。 「九九坂ですね。えー、十五時五十八分到着予定です」)
「なんだ、周遊券持ってるんだ・・・」
「いや、オレ・・・いつの間に・・・・・・どうしてポケットに・・・・・・」
  (横のシートから一人の男身を乗り出すようにして)
もしも捕り 「兄さん、どの辺りで商売を?」
「商売? 」
もしも捕り 「いやね、臨時環状の周遊券を持っていらっしゃるんでさ、 何かやっておられるんじゃないかと思いましてね」
トト 「いいえ。・・・電車は乗り間違いで・・・・・・どうして周遊券があるのか・・・」
もしも捕り 「いやいや、こんなにお若い方ですから、そりゃあ、ずいぶんお稼ぎでしょう」
トト 「?」
もしも捕り 「お嬢さんは?どちらまで」
「三つ又峠です」
もしも捕り 「ほう、三つ又峠ねえ。いやいや幸せな方だ」
「そうでしょうか・・・」
もしも捕り 「選択肢が三つもあるってわけでしょ」
「・・・そういえばそうですけど・・・」
「・・・あのう・・・」
もしも捕り 「なにか?」
「お二人のお話しがさっぱりわからないのですが・・・」
もしも捕り 「わからない?」
「ええ」
「あっ」
  (窓の外、雪のようなものが降ってくる。大きな白い網を持った人が何人も、舞落ちる白いものを取り、袋につめている)
アナウンス 「一本の松、一本の松。」
もしも捕り 「始まりましたよ、今年も」
「優雅ですねえ」
「何してるんでしょう」
もしも捕り 「あれ、お若いの。本当にご存じない」
「ええ」
「もしも捕りの人たち。お仲間ですよね」
「もしも捕り?」
もしも捕り 「年末の10日間だけ解禁でね。そりゃあ、大忙しってわけで。人間の想いを受け止めるのが、あっしらの仕事ってわけで」
「想い?」
「後悔みたいな・・・」
もしも捕り 「うーん・・・たとえば・・・」
「あの時忘れ物さえしなかったら・・・あの時、自分に素直になってたら・・・」
もしも捕り 「・・・まあ、お嬢さんのおっしゃるような想いでしょうか・・・『もしも』の想いっていいますか・・・」
「それが、あの白い?」
もしも捕り 「食べられたことは?」
「?・・・いえ・・・」
「食べられるの?」
もしも捕り 「パイにしてもまんじゅうにしても、そりゃあ、いけます」
「パイ?」
もしも捕り 「ええ、ええ。ケーキでもアイスクリームでも。最近は・・・そうそう、一番しぼりのワインが人気ですなあ」
「飲んでみたいわ」
もしも捕り 「『七わかれ通り』に着くころには駅で初売りが始まりますよ。兄さんも一度お試しくださいよ」
「あっ、はい」
もしも捕り 「お客さんたちは、年に一度、『あの時』をやりなおすために『臨時環状内回り』に乗る。あっしらはそのお客さんに喜んでもらうために、一ひらでも多くの『もしも』を取る。ま、そういうことですな」
「『二つ曲がり』では二つに一つを、『三つ又峠』では三つに一つを。もう、『もしも』って思わなくてもいいようにやり直すの」
アナウンス 「まもなく『二つ曲がり』。まもなく『二つ曲がり』。」
「もしもって後悔しないように?」
もしも捕り 「まあまあ、そうとばかりは言えないもんでねえ。『もしも』が後悔に結び付くとは限らなくってね・・・そこが味っていうもんでさ。あっしらの商売がなりたつってわけですよ。『もしも捕り』一人一人のブレンド、そこが、まあ、企業秘密ってわけですなあ」
  (電車、駅に着く。『もしも』の声満ちて来る。)
もしも捕り 「じゃ、あっしはここで。失礼します。お嬢さん、『三つ又峠』は冷え込みますよ。その格好じゃ凍えますよ。何か着なさったほうがいいですよ。じゃあ」
  (ざわめきの後、電車、発車)
「あっ、さっきの人。すごいなあ、網のふりかたが違うよ」
  (二人、黙って、窓の外を見続ける。 やがて、「次は『三つ又峠』のアナウンス。 『もしも』のつぶやきが辺りに満ちていく。 電車の止まる音。ざわめき)
「・・・・・・大好きな人だったのに・・・もしもあの時、自分の気持ちに正直になっていたら・・・って・・・どうして、どうしてって思ってたら・・・いつの間にか十三番ホームに立ってた・・・いつの間にか電車に乗ってた・・・」
「さよなら」
「さよなら・・・」
  (女、立ち上がり、歩いて行く。 男、あわてて後を追いかける。)
「よかったら、オレのコート・・・峠は冷えるって・・・」
「ありがとう。でも、お返しできないと思うから」
アナウンス 「・・・『臨時環状内回り1998』、まもなく発車いたします。お乗りのお客様、お急ぎください」
  (発車のベル。)
「どうしてあの時、どうして・・・どうして・・・、どうして・・・・・・」
  『もしも』のつぶやき、だんだん大きくなっていく
「雪が降りしきっていた。が、それは、『もしも』の一ひらだったかもしれない。
彼女は『三つ又峠』のホームにすっくり立った。・・・・・・
<とび降りて、肩を抱きしめてやりたい>・・・・・・
ぼくはつきあげるような想いにとらわれていた。」
  (電車の出る音、止まる音。ホームのざわめき。どこからかジングルベルが聞こえてくる。)
「気が付くと、十二番ホーム。雪が降り始めていた。
あの時、どうして一緒に電車を降りなかったのだろう
・・・・・・・・・・・・あの時、どうしてコートをわたさなかったのだろう・・・・・・
・・・どうして・・・・・・
どうして・・・・・・」
  (『もしも』『もしも』のつぶやき、大きなうねりになっていく。やがて遠くで電車の発車のベルが響く)


終わり
閉じる