ラヴィーナ&メゾン STORY FOR TWO クリスマススペシャル2007
「終わらないクリスマス物語」
第1話(2007年12月23日 ON AIR)
「油を注がれるもの」

作・

キャスト アブラ(男) 腹筋善之介
  あたし(女) 山本 操
  本屋(男) 森本研典 (劇団○太陽族)
  少女(女) 平野 舞
アブラ

そのクリスマス、売ってください。

  
 

ペラリ、本のページをめくるかすかな、音

  
あたし

アブラという男は、少女にそう言いました。「そのクリスマス、売ってください」と。

  
 

ペラリ、本のページをめくるかすかな、音

  
あたし

あたし 少女は、淡い空色の包装紙に包まれてピンクのリボンで飾られた小さな小さな箱を持っていました。アブラという男は、その小さなプレゼントの箱を指さして、確かにそう言ったのです。町はピカピカ。サンタの顔と雪の結晶で飾られて、走れソリよと歌が聞こえる。町を行き交う人たちの手の中にそれぞれのクリスマスプレゼントを抱えて、誰もかれもが家路を急ぐ。少女だけが、来ない誰かを待って忙しい町の中、ひっそり と立っていた。アブラという男の風体はそれはお世辞にも美しいとは言えなかった。
だらりと伸びた前髪、ヨレヨレのコート、かさかさにひび割れた唇、髪の間から覗いた瞳は、とても、悲しそうであった。それから、

  
 

コツコツと、階段を降りる靴音
重い鉄の扉が開く
ギィィィ

  
本屋

まだいたの?

  
 

扉から顔を出したのは、中年の男

  
あたし

<うーん、ちょっと続きが気になって。/p>

本屋

店閉めるけど。

あたし

もうそんな時間?

本屋

8時。どうする?上、上がる?

あたし

まだ、いてもいい?

本屋

いいけど、鍵渡しておこうか?ここの扉と、一階の店の入り口閉めてくれたらいいから。

あたし

おいちゃん。

本屋

ん?

あたし

本屋って儲かる?

本屋

バカスカ儲からないよ。

あたし

この地下室をお店にしたほうが絶対儲かるね。開放したら?

本屋

駄目。

あたし

なんでよ?絶対いいと思うのに。蛍光燈でペッタリ明るい本屋さんの奥に、ふるーい扉があってその向こうには地下室に続く階段があって、ひんやりしててさ、螺旋の階段降りたらまたふるーい扉があって、開けると紙の匂い。積み重なって本、本、本。裸電球で読みたい本を探すの。見たことない本ばっかりでさ、マニアックできっとウケると思うのに。

本屋

ここに置いてあるのは、売り物じゃないからなぁ。海外で買ってきたやつもあるしなぁ。
あと、売れない小説家の友達が置いてったやつとか。

あたし

おいちゃん。

本屋

ん?

あたし

今年もまた来ちゃって、ごめんね。

本屋

なんでなんでなんで?いいよ。年に一回だけじゃなくて、クリスマスだけじゃなくて、本当なら毎日だって来ていいんだから。

あたし

遠いしね。

本屋

お母さん元気?

あたし

おばあちゃん?うん、元気。でも、まだね。クリスマスだけは。

本屋

沈んでんだ。

あたし

あたしまで暗くなっちゃうから、ごめんね。ここに非難。

本屋

彼氏とでなーにでも行けばいいのに。何もこんなところでクリスマス過ごさなくても。

あたし

でも、続きが気になるから。あ、いるよ。彼氏くらい。ちゃんと。でも、今日はね、今日だからね、続き読まないと。

本屋

続き?

あたし

ね、この本、誰が作者?有名な人?

本屋

どれ?

あたし

これ、「油を注がれるもの」初めて読んだ時ね、始まりが一行だけだった。なのに次の年のクリスマスに読んだら、

本屋

続きがあった?

あたし

そ。なんで?

本屋

なんでだろ?

あたし

あたしが聞いてるの。

本屋

だって、それ、

あたし

うん。

本屋

姉ちゃんの。

あたし

え?

本屋

姉ちゃん、若いころちまちま書いてたから。他にもあるよ。姉ちゃんが書いたやつ。どこだったっけなぁ。

あたし

うっそ。だってお母さん銀行員だったんだよ?

本屋

だから若い頃だって。ちまちま書いては、俺読まされて感想文書かされてたし。

あたし

おかしいじゃん。だって始めて読んだの5年前。それから、ほら、一頁増えて、また次ぎの年に一頁増えて、毎年、クリスマスにここに来て読むたびに続きがあるんだから。

本屋

だって、

あたし

ほら見て。

  
 

あたしは本屋にその本を突き出して

  
本屋

…あぁ、「油を注がれるもの」

  
 

ペラリ、本のページをめくるかすかな、音

  
本屋

そのクリスマス、売ってください。

  
 

ペラリ、本のページをめくるかすかな、音

  
本屋

アブラという男は、少女にそう言いました。「そのクリスマス、売ってください」と。

  
 

ペラリ、本のページをめくるかすかな、音

  
本屋

少女は、淡い空色の包装紙に包まれてピンクのリボンで飾られた小さな小さな箱を持っていました。アブラという男は、その小さなプレゼントの箱を指さして、確かにそう言ったのです。町はピカピカ。サンタの顔と雪の結晶で飾られて、走れソリよと歌が聞こえる。町を行き交う人たちの手の中にそれぞれのクリスマスプレゼントを抱えて、誰もかれもが家路を急ぐ。少女だけが、来ない誰かを待って忙しい町の中、ひっそりと立っていた。アブラという男の風体はそれはお世辞にも美しいとは言えなかった。
だらりと伸びた前髪、ヨレヨレのコート、かさかさにひび割れた唇、髪の間から覗いた瞳は、とても、悲しそうであった。それから、

  
 

それから、ペラリと本のページをめくる音

  
アブラ

そのクリスマス、売ってください。

少女

これ?これは…駄目よ。

アブラ

いくら出せば売ってもらえるんでしょう?

少女

いくら出しても、駄目よ。

アブラ

困りました。

少女

あなた、困ってるの?

アブラ

はい。

少女

どうして?

アブラ

クリスマスを探しているのですが、どうしたら手に入るのか分からなくて困っています。

少女

クリスマスは手にいれるものじゃなくて、

アブラ

なくて?

少女

ううんと、ええっと、ううんと、そう、お祝いするものなの。

アブラ

お祝い?

少女

そう、救世主の誕生の、お祝いをするの。そう、誕生日なのよ。

アブラ

じゃあ、そのプレゼントは、救世主に渡すもの?

少女

これは、父さんと母さんにプレゼントするもの。

アブラ

救世主の誕生なのに?

少女

なのに。なのに?…うん、いいの、そういうものなの。

アブラ

困りました。

少女

困ったわ。

アブラ

もしや私の存在が?

少女

あ、ううん。違うの。そうじゃなくて、

アブラ

はい。

少女

変なの。

アブラ

え?

少女

変だわ。

アブラ

何が?プレゼントが?私が?あなたが?クリスマスが?

少女

ううん、違うの。父さんと母さんが遅いから、困ったちゃって、でもそれから、変ねぇって思ったの。もう随分待っているのに、もう、お迎えに来てもいい頃なのに。変ね。

アブラ

何か、あったんでしょうか?

少女

何かって?

アブラ

ここに来られない何かが。

少女

え?

アブラ

例えば…

少女

きっとバスが遅れてるだけね。だってクリスマスだもん。きっとそう。

アブラ

もし、

少女

え?

アブラ

もし、何かあれば、私があなたの救世主になりましょうか。

少女

え?

アブラ

その、あなたの小さなクリスマスと引き換えに。

少女

あなたが?

アブラ

ええ。

少女

救世主?

アブラ

ええ。

少女

おかしいの。あなたは何を救ってくれるの?

  
 

ペラリと、ページをめくる音

  
あたし

次のページは、真っ白。今年はここまでみたい。

本屋

あたし

終わらないから、また来年も来ちゃうじゃない。ねぇ?おいちゃん。

本屋

そう?

あたし

だって、この本の中では、もしかしたらお父さんとお母さんが救われるかもしれないじゃない?だって作り話しだから、救世主が出てくるんだから。あたしの時と違って。

本屋

おいちゃん、ふぁんたじーなこと言ってもいい?

あたし

何?

本屋

これ、毎年姉ちゃんが書いてくれてるんじゃないかな?

あたし

え?

本屋

あー、ほら、お前があんまり悲しまないように、ほら、な?

あたし

おいちゃん。

本屋

ん?

あたし

あたし、もう子どもじゃないよ。

本屋

そんなこと知ってるよ。

あたし

おいちゃん。

本屋

ん?

あたし

ありがと。

本屋

あ?あぁ…

あたし

来年もまた来る。続き読みにね。それ毎年の楽しみだから。/p>

  
 

パラパラパラページをめくる音に終わりはない<

  
  
  
おしまい
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