ラヴィーナ&メゾン STORY FOR TWO クリスマススペシャル2012
“天使のアルペジオ”
第2話(2012年12月24日 ON AIR)
「幸せな小説家」

作・山内直哉(隕石少年トースター)

キャスト 娘(女・29歳) 平野 舞(維新派)
  父(男・63歳) 腹筋善之介(IQ5000)
  父の友人(男・63歳) 上田一軒(スクエア)
  母(女・60歳) 原 尚子
  
 

地元の駅
構内の喧騒

  
  
 

発車の合図
ドアが閉まる
電車が発車する

  
娘N

今年の秋のことです。仕事帰り。
地元の駅に着くと、ホームのベンチに座る父の背中が見えました。
誰かと話をしていました。私は、気付かれないように、
そっと後ろのベンチに座り、話を盗み聞きしました。
ほんの興味本位だったんですけど、それが、大変なことになってしまったんです

  
 

向かいのホームを電車が通過する
ホームのベンチに座って語る父と友人

  

おまえ、全然変ってないな

おまえも変ってないな

それでも、63か?

おまえこそ、63じゃないだろ

小説家はな、年を取らないんだよ

サラリーマンだって…同じだよ

そうか

そうだよ

お互い、幸せってことか

…そうだな

覚えてる? ココで話したこと。このベンチ。座る位置も全く同じで

あの時、俺はこう言ったんだよな。結婚して家庭を築くのが一番の幸せだって

俺はこう言ったんだよ。一寸先は闇でも夢を実現させるのが一番の幸せだって

40年、忘れなかったよ

その夢が、叶ってるってすごくない?

素晴らしいと思う

だよな

だけど…

だけど?

だけど…

小説家を目指していたらどうなっていたのか

それは、正直思うんだよ

それは、お互いさまだよ

大変だった?

大変だったよ

そうか

好きなことを仕事にするのって、思ったより、辛かった

好きなことする時間がないのは、思った通り、辛かった

そうか

うん

最近は?

ん?

どうしてんの。退職してから

うーん…家でボーっとしてるかな

そうなんだ

うん

…夫婦水入らずでいいじゃない

まあ、娘もいるけど

ああ、娘さん。一人だっけ

うん、一人娘

今何歳?

29

結婚は?

まだ

そうか。まあ、焦ることはないよ

いや、俺は別に焦ってないけど

娘さん、焦ってんじゃない?

いや、それがさ、分かんないんだよ

分かんない?

最近、何かに悩んでる感じがするんだけど、何に悩んでるかが分かんないんだよ

まあ、29だったら、恋も仕事も色々悩む時期だからなあ。話は? しないの?

するけど、悩みは言ってくれないなあ

じゃあ、悩んでないのか

いや、絶対何か悩んでる

それは分かるんだ

分かる

何で?

雰囲気

雰囲気?

雰囲気で分かるんだよ

そういうもん? 

そういうもんだよ

俺、子どもいないから

29年一緒にいると、悩んでるかどうかは分かるんだよ

でも、何に悩んでるかは分からない

そうなんだよ(と、苦笑)

俺が聞き出してあげようか?

え?

小説家としての力を見せてあげようか?

小説家、そんな力ないよね

おいおいおいおいおいおい

何だよ

小説家はな、哲学者でも心理学者でもあるんだぞ?

どういう意味?

常に読者の立場になって書いてんだぞ? 相手の気持ちを察するのが上手いんだぞ?娘の悩みなんて一発で解決しちゃうぞ?

ホントかよ

俺が今までどれだけの文章を生み出して来たと思ってるんだ?

じゃあ、今度、ご飯食べに来る?

おお、行く行く

一緒にご飯食べながら話そうよ。来週はどう?

作戦か

どうしよ

久々に飲みに行く?

行くか。アノ居酒屋

まだあるかな

え?

駅前も随分変わったから

変わったよなあ

  
 

電車が通過する

  
娘N

大変なこと。そう、それは、私が話を聞いてしまったのです。
それから一週間後、父の友人はやって来ました。
どういうわけか、変装しておられました。サンタクロースに。
しかも、声を変えて。あれほど、息の詰まる食卓は初めてでした

  
 

食卓を囲む父・友・母・娘
テレビでは野球中継が流れている
(友人、声を変えて、サンタを演じている)
(一同、時々口に物が入りながら話すイメージ)

  

遠慮せずに食べて下さいね

ええ、いただいております

この方はね、国際サンタクロース協会公認のサンタさんで、
日本人では、パラダイス山元さんに続いて二人目なんだ

最近、試験に受かりまして

へえ、そうなんですかあ

お名前はなんとお呼びすれば

はい?

お名前

あ、名前は何でもいいですよ

え?

すみません、お醤油取っていただけますか

ああ、ごめんなさい

サンタクロースに名前なんてないよ

パラダイス山元さん

ああ、そういう名前?

なんとお呼びすれば

お醤油ありがとうございます

そちらに置いといてもらっていいですよ

ああ、恐縮です

サプライズ金本

え?

サプライズ、金本さん

サプライズ?

うん。金本さん

サプライズ金本?

サプライズ金本ですけど? 何か?

ほら、クリスマスプレゼントって、言ってしまえば、サプライズだから

そこから名付けましたけど? 何か?

  
 

父、テレビのチャンネルを変える
クラシック音楽番組が流れる

  
娘N

父がチャンネルを変えました。アレほど野球好きな父がクラシック番組に。
あ、金本は阪神の金本か。だから、変えたのか。それにしても、作戦の詰めが甘いです

  

あの、サプライズさん

(味噌汁をすする)

サプライズさん

あっ、はい?

サンタクロース小話みたいなのってあるんですか

ありますけど?

聞かせていただけます?

もちろん

  
娘N

母が話を変えました。母もグルです

  

サンタクロースの白い袋、ありますよね

プレゼントの

アレには何が詰まっているかご存知?

プレゼントじゃないんですか?

アレには哀しみが詰まっているんです

哀しみ?

哀しみを多く知る人は、たくさんのプレゼントを与えることが出来る

いいサンタクロースほど、たくさんの悩みや苦しみ、哀しみを白い袋に隠しているもんなんです。
だからこそ、子供にプレゼントをあげることが出来るんです

プレゼントは形だけじゃないってことか

いいお父さんになる人って、そういう人なんですね

そういうことなんです

  
娘N

金本が声を変えました。というか、途中で諦めました。
作戦は早くも終焉を迎えています。
私のためにやってくれるのは嬉しいけど、正直、いたたまれないので、
こちらから悪戯を開始しました

  

サプライズさん

はい?

声、変わりましたね

あ、そうですか? たぶん風邪が治ったんじゃないですか

風邪だったんですか

ええ、でも、今、ご飯食べたから。元気になっちゃった

それは良かった

さっきから、ヒゲも一緒に食べてますよね。ご飯と一緒にヒゲが口の中に

おい、何を言ってるんだ

サンタさんに失礼なこと言わないの

だって、ご飯と一緒にヒゲが口に入ってるから

知っています

知っていらっしゃいます。サンタさんはみんなそう

そうなんですか?

そうですよ? 口に入らない方がおかしいでしょ。こんな長いんだもん

サンタクロースにも悩みがあるんですねえ

ありますよォ。いっぱいありますよ。まず、ヒゲでしょ? 口に入るっていう。
コレ一番のやつ。ね。あと、最近は、サンタの世界でも心の病が流行って来て、
トナカイ見るだけで吐き気するヤツも出て来てますから。
お嬢さん、そういう感じのことない?

ないです

今年のクリスマス、一番不幸な人って、
キリストのフレスコ画を修正したおばあさんよね。
サルみたいになった状態でクリスマス迎えるって、相当キツくない?

え、何の話!?

あの人に比べたら、みんな幸せって話

お母さん、もういいよ。お父さんも

もういいって、何が

私のために作戦考えてくれてありがと

作戦…!?

駅のホームで全部聞いたから

えっ!?

二人で話してたの聞いたから

居酒屋にも来たのか!?

居酒屋には行ってない

あの、ヒゲ外してもいいでしょうか

お父さんはね、小説家になりたかったの。今日の作戦はね、お父さんの考えた物語。セリフも構成も、全部お父さんが考えたの

センスないよ。リアリティないし、詰めが甘いし。おかしいよ

そういうこと言わないの

お父さんは立派に家族を支えて来てくれたんだから、それでいいじゃん。
小説家じゃない普通のサラリーマンのお父さんで、私は幸せだったよ

ごめんな。ありがと

どうぞ、ヒゲ、外して下さい。主人の無茶ぶりに付き合わせて、すみませんでした

いや、今の、娘さんの言葉を聞けただけで、ヒゲを食べた価値がありますよ。
最高のキャスティング。最高のセリフ。こんな幸せな小説家はいないよ

センスないって言われちゃったよ

嬉しそうな顔して

始まっちゃったよ

  
娘N

失敗したから始まってしまったと、父は何度も嬉しそうに言いました。
退職してからずっとボーっと暮らしていたお父さん。
これで、第2の人生を謳歌してくれたら、私は満足です。
これでやっと、私の悩みが晴れたのです

  
 

娘の優しさが、父の心にいつまでも鳴り響いた―