1205話(2019年5月4日 ON AIR)

「稲荷橋仇討ち顛末記」

作・嘉納みなこ
出演・東千紗都
藤井颯太郎
ナレーション
時は元禄。師走も終わりにさしかかったある夜の、五ツの鐘が鳴り響いたころ。播磨国は稲荷橋のたもとに、一組の男女が相まみえておった・・・。
おしの
よくおいでくださいました、佐伯左衛門丞さま。
左衛門丞
おしのどの。この文は何かの間違いでは?
おしの
間違いではありませぬ!あなたさまは私の兄、勘解由を殺したのです!
左衛門丞
誤解である!
おしの
あの晩、兄があなたと一緒にふぐを食べに行かなければ・・・!
左衛門丞
あれは勘解由殿にだけ、ふぐがモロに当たって・・・。
おしの
あなたが毒をもったのでしょう!
左衛門丞
誤解である!
おしの
黙りませい!今宵、兄の仇を打つ!お覚悟!
おしの、刀を振る。
左衛門丞
見事な太刀筋。女宮本武蔵とでも言おうか。
おしの
私は田川流小太刀術を修めております。遠慮は無用です。
左衛門丞
かくなる上は仕方ない。(刀を抜く)決闘とあらば、手加減しませんぞ!
おしの
望むところ!たあ!
再びおしのの小太刀が宙を舞う!
左衛門丞
うっ!
おしの
ああっ。お怪我ありませんか?
左衛門丞
えっ?大事ない。片袖が切れただけのこと。
おしの
よかった。
左衛門丞
これは異なことを。
二人
・・・
おしの
何でもありませぬ!参る!
二人
たあ!
刀がぶつかる音!
おしの
うっ。
左衛門丞
すまん!ちょっと当たり申したか?
おしの
いいえ。
左衛門丞
おしのどの。・・・先程から、なんと美しい瞳だと思っておるのだが。
おしの
わたくしもでございます。
二人
・・・。
おしの
兄の仇!!
刀がぶつかる音!
おしの
なぜあなた様を見ると胸がどきどきするのでしょう・・・。
左衛門丞
それはこちらも同じこと!
二人
やあ!
刀がぶつかる音!
左衛門丞
今度、浄瑠璃でも見に行かんか!
おしの
ちょっと考えてみます!
二人
たあ!
刀がぶつかる音!
左衛門丞
考えたか!
おしの
ハイ!行きましょう!
左衛門丞
おしのどの!
おしの
左衛門丞さま!
ナレーション
こうして、恋の力で仇討ちは終わりを告げた。
おしの
あの。
左衛門丞
なんじゃ?
おしの
もういっそ、祝言をあげませぬか?わたくしもう19ですゆえ。
左衛門丞
いや、せめて三年、付き合ってから判断したい。
おしの
三年?わたくし、22になってしまいます。
左衛門丞
いたし方ない。
おしの
では22で祝言を?
左衛門丞
それは、わからん。
おしの
もしかして、破談になる可能性もあるということですか。
左衛門丞
それは、その時の状況などから全体的に判断したい。
おしの
 ・・・兄の仇!!
おしの、剣をふるう!
左衛門丞
またれよ!それは兄の仇なのか!
おしの
もうなんでもよい!
おしの、乱れ打ち。
左衛門丞
(剣を受けて)先程よりもはるかに剣が重い。これはやられるやもしれぬ・・・!強い!
おしの
22でほうりだされても困るのはこっちなのですよ!乙女心をもてあそんだ罰じゃ!
左衛門丞、やられる。
左衛門丞
(断末魔)
おしの
兄様・・・。仇は打ちました。
ナレーション
こうして、仇討ちだかなんだかよくわからないものは終わった。その後おしのは、好みではないが堅実な男と祝言をあげ、「結婚ってこんなものっしょ。」と友達に語ったという。現代にいたるまで、男女とは、そして結婚とは、なんと難しいものであろうか・・・。
終わり。