1226話(2019年9月28日 ON AIR)

「桜子さんのスイッチ」

作・はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)
出演・大熊隆太郎
のたにかな子
勇次のM
その日、桜子さんのスイッチが入ったのは、
2人でパスタを食べ始めた直後だった。作ったのは僕。
2人でパスタを食べだす
勇次
どう?
桜子
…お前はよくやってる。
勇次
…それって、美味いってこと?
桜子
私の目を見て。いいから見るの。
勇次
見てるけど…
桜子
おっと、私としたことが…さあ坊や、それをこっちに渡すのよ。
悪いようにはしないから。
勇次
ああ、タバスコね。
桜子
…ゆっくり、そう、その調子。いい子だからおとなしく…
(受け取り)OK。ショーの始まりね。
タバスコをシャカシャカ振って、思いっきり掛ける桜子。
勇次
ちょっと掛け過ぎ…
桜子
もうウンザリ! いい加減にして頂戴。パパはいつだってそう!
勇次
パパじゃないし。
桜子
ジャック…貴方疲れてるのよ。
勇次
いつからパスタに名前が…
桜子
わかったわ。じゃあこうしましょう?
2度は言わない、よーく聞いて。……あばよ、化け物。地獄に落ちろ。
ガツガツとスパゲティーを食べる桜子。
勇次のM
桜子さんが僕の部屋に転がり込んできたのは先週の土曜。
共通の友人、保先輩が、この世を去った1週間後だった。
気晴らしにと、海外ドラマシリーズを借りてきたのが僕。
1日10本以上見続けているのが桜子さん。
桜子
(食べながら)なかなかやるわね。これが最後の警告よ。
世の中には2種類の人間がいるの。それはね…パスタとソースよ!
勇次
そもそも人間じゃないし。
桜子、パスタを完食する。
桜子
ふう…手こずらしてくれたじゃない。最高にイカレた夜だわ
(勇次に)で? アンタ名前は?
勇次
勇次です。
桜子
いい名前ね。でもこの町じゃ、名前に意味なんてないのよ。
勇次
はあ…
桜子
よかったらこのあとコーヒーでもどう?
勇次
…ああうん。ちょっと待っててね…
洗い物の。遠くでアクション系のドラマ。
勇次のM
口をきいてくれない桜子さんが、食事の時だけヒロインになる。
それは食後のコーヒーでフェイドアウトし彼女は画面に帰っていく。
僕はその現象を歓迎した。桜子さんは最初の3日間、一切食事をしなかった。
その安心感ももちろんだけど…
海外ドラマの流れる中、声を潜め泣いている桜子。
勇次のM
桜子さんは僕のヒロインだから。保先輩を紹介するずっと前から。
先輩に熱い視線を送っている桜子さんに気づいた時も、
3人のグループLINEが減っていったあの頃も、僕の気持ちは…
桜子
ねえ。
勇次
…え、ああ、うん。
桜子
良いニュースと悪いニュースがあるの…
勇次
あ、何か食べます?
桜子
ううん。
勇次
え、じゃあ…
桜子
どちらから聞きたい?
勇次
えっと…良いニュース…
桜子
…ありがとね、勇次。
勇次
…え?
桜子
お前はよくやってる。でも、もう少し時間を頂戴。
せめてこのシリーズを見終わるまでは。
勇次
桜子さん…
桜子
ごめんね。私、勇次の気持ち知ってて…
勇次
僕も真似していいですか?
桜子
え?
勇次
桜子はいい女だ。先輩はお前を愛してる。
桜子
…うん。
勇次
あいつは…助からなかった…
桜子
…うん。
勇次
だから俺は……あ、待って。ねえ、悪いニュースの方って…
桜子
席を外してくれる?
勇次
え?
桜子
第7シーズン見終わった。ファイナル10巻借りて来て。
勇次
…ラジャ。
(おしまい)