1250話(2020年3月14日 ON AIR)

「最後のエレベーター」

作・福谷圭祐
出演・東千紗都
藤井颯太郎
随分と長いエレベーターの中。
僕たちが交際するにあたって、ルールを決めたいと思う。
デートは週何回にするとか?
いや、そういった努力義務規定の制定も不可欠だが、後回しでいいだろう。
何を決めるの?
端的に言おう。どこからが浮気かを決めておきたい。
え?
どこからが浮気だろうか。
そんなこと、決めなくちゃダメ?
決めておくべきだ。のちのち争わずに済む。
そんなことを一番に決めるの?
ほかに何を優先する?
結婚を見据えて、二人でいくら貯金するかとか。
たしかにそれも大切だが、浮気で揉めないことのほうが重要だ。
浮気するつもりなの?
浮気のつもりがなくても、結果的に君が浮気だと感じることがあるかもしれない。
どんなことするつもりなの?
だからそれを事前に決めておきたい。どこからが浮気か。
自分で考えてわかるんじゃないの?
君はどこからが浮気だと思う?
どこからもなにも、浮気は浮気じゃない。何をいってるの?
じゃあ例えば、エレベーターで二人きり。これは浮気だろうか。
浮気なわけないじゃない。
うむ。
別に、女友達と食事に行くくらいなら好きにしていいから。
ほう。
なに、「ほう」って。女友達ならよ? 浮気するつもりならダメだからね。
君のその浮気が何を指すのかを知っておきたいんだ。
だからそんなの、浮気は浮気じゃない。
肉体関係を指すのかい?
そんなの絶対ダメに決まってるでしょ。
キスはセーフかい?
アウトよ。なんでセーフだと思ったの?
セーフだとは思ってない、確認しているだけだ。
そんなこというなら、手をつなぐのもダメだからね。
呼び止めるとき、肩に触れるのは?
それはセーフよ。
エレベーターで二人きりになるのは?
だからセーフ。
サランラップ越しのキスはどうだい?
あなたは何をいってるの?
ギリギリセーフかな?
めちゃくちゃアウトよ。その状況がアウトよ。
分厚い植物図鑑を間に挟んでのキスは?
距離の問題じゃなくて、それをやろうとしていることがアウト。
混浴に入るのは?
ねえ、やめてよ。なんでギリギリを攻めようとしてるの?
攻めようとしてるわけじゃない。ただ知っておきたいだけだ。
浮気っていうのは、物理的な現象で決められることじゃないと思う。
面白い見解だ。
あなたの心次第だと思うわ。
僕の心は、いつだって君のそばにあるよ。
だったら、こんな質問しないで。
エレベーターで二人きりになるのは、セーフかい?
なんだかもうアウトよ。怖くなってきたわ。あなたがおかしな質問をするから。
初めて君とキスをしたのは、エレベーターの十五階から四十七階にかけてだった。
よくそんなこと覚えてる。
あれ以来僕はどうも、エレベーターで女性と一緒になると、
ドキドキしてしまうようになったんだ。
だったらもう禁止よ。あなたは一生階段を昇降しなさい。
エレベーターが止まる。
アナウンス  四十八階です。
ちなみに、引越しの予定はあるかい?
ないわ。
えらいことになった。
終わり。