1255話(2020年4月18日 ON AIR)

「特別な日」

作・福谷圭祐
出演・のたにかな子
ゲスト出演・金替康博(MONO)
とりあえず生と、冷ややっこ。あと、ホタルイカの沖漬けと、どうしようかな。
なんかある? あ、天ぷら盛り合わせにしよう。と、ポテトサラダ。
あと、ウーロン茶。以上で。まりこ、カバンそっち置いていい?
なんかさー。
うん?
「なんか食べたいものある?」とか聞かないよね。
え? 聞いてなかった?
聞いてなかったよ。
うそ、聞いたと思うけど。
たぶんじゃあさ、その聞くっていうのがさ、無意識の作業になってるんだろうね。
なになに? どうしたの?
心から、キミは何が食べたい?って尋ねる、そういう気持ちじゃなくて、
とりあえず、無意識のうちに経るプロセスでしかなくなってるんだろうね。
いや……、聞いたよ? 俺。たぶん。
たぶんでしょ?
たぶんだけど、ごめんごめん。そんなに怒んないでよ。
ウーロン茶とは限らないから。あたし。
あ、違うのがよかった?
ウーロン茶でいいけど。
じゃあ、いつも通り……。
でもわかんないじゃん! 今日のあたしはトマトジュースかもしれないし、
ジンジャーエールかもしれないじゃん!
ごめんごめん。つい、いつもの習慣で。
習慣にしないでほしいっていう話をしてるのね。
うん。
あたしを、あなたの人生の習慣にしないでほしい。
え、そんな大げさな話?
なんか、どういうふうに考えてる?
なにが。
将来。
……、結婚とかそういう話?
だとしたら?
いやでも、結婚とかの話とかは、ちゃんと、あれでしょ。
二人でしなきゃいけないでしょ。機会を設けて。
今日、今この瞬間とかは、その「機会」じゃないんだ。
今日はだって、別に。
「今日はだって別に」の日なんか、あたしにはもう無いんだからね?
……いや。
「別にだっての今日」のつもりで、あたしあなたに会ってない。
そっか。
あたしが何歳か知ってる?
知ってるよ。
何歳?
そんな、クイズみたいなことやめようよ。
え、わかんないの?
わかんないっていうか、そんな、クイズみたいなことしてもしょうがないでしょ。
別にクイズじゃないよ。質問だよ。何歳?
三十二。三。まあその。
まあいいんだけどさ。
そういうの、覚えてくれるような人じゃないっていうのは知ってるから。
あと三時間で三十三だろ。それは覚えてるよ。ちゃんとプレゼントも用意してる。
え。
苦手なんだよ。いつもと違うのが。
できるだけいつも通り過ごして、帰り道に渡すつもりだから。
ドキドキするんだよ、こういうの。爆弾抱えてるみたいでヒヤヒヤするんだ。
だから俺は、まりこが、俺のいつもになってほしいって思ってる。
それってプロポーズ?
わからないけど、俺は、いつも通りの日を、いつも通り過ごしたいんだよ。
なにそれ。
終わり。