1266話(2020年7月4日 ON AIR)

「直之と景子のどこへもいけなかった夏」

作・嘉納みなこ
出演・藤井颯太郎
水木たね(りゃんめんにゅーろん)
JR大阪駅一階のグランフロント前。金曜の夜7時半。
無難な小花柄のワンピースを着た景子に、紺色のスーツに妙なネクタイをした
直之がおずおずと近づいてくる。
直之
景子さん・・・。
景子
(直之に気が付いて)あ。こんばんは。
直之
こんばんは・・・。
景子
アハッ。そのスーツ、素敵ですねぇ。
直之
そうですか?
景子
そうですよぉ。アハッ。
沈黙が訪れる。
景子
あの・・・どこ行きます?
直之
合わせます。
景子
私が合わせます。
直之
・・・何が、食べたいですか?
景子
おいしいもの。
直之
ああ・・・。(小声)漠然としやがって・・・!
景子
えっ?
直之
なんでもないです。なんでもいいです。
景子
ダメ、男の人がそんなこと言ったら。結婚相談所の人が怒っちゃいますよぉ?
どこ行きます?
直之
うう・・・。
景子
決めてください。
直之
どこがいいのか・・・
景子
今日こそ決めてください。私たち、もう10回も会ってるのに、
一回も待ち合わせ場所から動いたことないんですよ?
直之
ああ・・・!
景子
見てください、私の目。もう泣く寸前ですよぉ?
直之
どこがいい・・・どこが一番・・・!うああああ!(逃げる)
景子
直之さん待って!
直之
放せえ!
景子
これじゃ五回目のデートと同じじゃないですか!
直之
ああ。
景子
とりあえずどこか行きましょうよぉ!
直之
だって決められないんだ!
景子
大丈夫!直之さんなら決められる!
直之
無理だ!わからないんだ!安くてうまくてポイントがたまってクーポンが使え、
かつ女が満足する、この世で一番いい店はどこにあるんだ!
景子
私は、どこだっていい!
直之
景子さん!
景子
一緒にいられれば、それで・・・。
直之
そこまで(僕のことを)・・・。わかりました。じゃあ、どの店がいいですか?
景子
決めてください。
直之、柱に腕を押し当てる。
直之
あなたとは合わない・・・。
景子
わかってはいるんです・・・。
直之
別れましょう。
景子
別に付き合ってませんから。
直之
この会話、いつかもしましたね。
景子
七回目のデートです。
直之
ああそうか。
景子
でも、直之さん、私以外にお相手います?
直之
八回目のデートでも聞かれましたね。いません。
今まで百人ほど紹介してもらいましたが、一回目のデートで全員にフラれました。
景子
私も同じです。だいたい二回目でフラれます。
直之
僕ら、似た者同士ですね。
景子
前回のデートで確認しあいましたよね。・・・私、疲れちゃった。
直之
景子さん。
景子
早く決着、つけてください・・・。
直之
・・・決められない。だって、あそこを歩いている女性の方が
あなたより素晴らしいかもしれないじゃないですか。
景子
本人の前でよく言いますよね。
直之
僕はこの世で一番いい人を選びたいだけなんです。
たしかにあの時一緒に見た海は美しかったですが・・・。
景子
それは私じゃありません。
直之
そうでしたっけ?
景子
はい。
直之
そうか、こいつじゃなかったか・・・。
景子
こいつって言わないでください、本人の前で。
ねえ、直之さん、私しかいないでしょ?あなたみたいな人には、私しか。
直之
わかってる!!
景子
私、断りませんから・・・。
直之
うう、ああああ。(えづいて)すいません、ちょっとトイレに・・・!
景子
ついていきます!
直之
それはやめて!
終わり。