1275話(2020年9月5日 ON AIR)

「恋の早送り」

作・福谷圭祐
出演・藤井颯太郎
高安智美(壱劇屋)
なんらかの危機を示す爆発音、あるいは警報音。
いかん! 世界が終わってしまう!
いけませんねぇ。
ずっと黙ってたけど、ワシはサエコのことが好きだったんじゃ。
なんと。私もですよ。
なんてことだ。サエコと恋がしたかった。
私も、タクロウさんと恋がしたかったですよ。
今からでも間に合うじゃろうか。
間に合うんじゃないですか。
あなたと、添い遂げたい。
添い遂げましょう。これから。
ではまず初デートじゃ。
どこに行きましょう。
これは付き合う前の初デートじゃ。お互いまだ、様子見のデートじゃ。
映画館なんていかがですか。
いいのう! しかし、劇場が空いとらん! 
タクロウさんと一緒なら、どこでもかまいません。
お茶をしよう。
ええ。
店に入る暇はない。しばし待っとれ。
男、小銭を取り出し、落とす。
いかん、手が震えるの。
焦ることはありませんよ。
男、自動販売機でお茶を買う。
ペットボトルで、すまんの。
いいえ。冷たくて気持ちいい。
次は愛の告白じゃ。二人が結ばれる日じゃ。
ええ。
サエコ、好きじゃ!
タクロウさん、私もですよ。
そして初夜じゃ。二人で過ごす初めての夜じゃ。
恥ずかしいですわ。
サエコ、脱がせるぞ。
優しくしてくださいまし。
で、やりました、と。
やらないんですか?
時間がないからの。そして喧嘩じゃ。
喧嘩ですか?
うまくいくことばかりではない。ときに二人はすれ違い、言い争うこともあるのじゃ。
そんなことあるでしょうか。
あるに決まってるだろう。
私、タクロウさんと言い争うことなんて想像できませんわ。
いいから想像せい!
そんなこと言われたって困ります。
サエコ。
残り少ない時間、喧嘩なんかせずに過ごしたっていいじゃないの!
おおお。カーット! オッケーじゃ! 
カット?
サエコ、すまんかった! わしが間違っていた!
いいえ、いいんですよ。
次は、ええと、次は……。
ふふふ。
何を笑っておる。
タクロウさん。あなたを見ていると、あなたの歩んできた歴史が目に浮かぶようです。
まるでずっと、あなたとともに過ごしてきたかのような気持ちですよ。
サエコ。
タクロウさんは、いかがですか?
わしは……わしも……いや、わしは。わしは、後悔している。
サエコに想いを伝えなかったこの生涯を、悔やんでおる。
タクロウさん、こっちに来てくださいまし。
手をつないでもいいか?
もちろんですよ。
空が、赤くなってきたのう。
あなたの顔も、似たようなものです。
サエコ。……愛してるぞ。
タクロウさん。私もですよ。
終わり。