1277話(2020年9月19日 ON AIR)

「遠くから連れて来られて」

作・稲田真理(伏兵コード)
出演・大熊隆太郎
東千紗都
猛暑が長引く朝。マンションベランダ。
美子
朝顔、終わりかな。
隆明
俺、水やるよ。
美子
終わりだと思う?
隆明
まだ、もうちょっと咲くんじゃない。
美子
朝顔に咲く気持ちがあるなら、是非。
隆明
どうですかね、朝顔さん。…返答ありませんね。
美子
返答ありますよ、今なくても。
隆明
はい、水かかっちゃうから、ちょっとどいて。
美子
どうなっちゃうんですかねぇ。
隆明
今年?
美子
色々なことが不安になっちゃいますねぇー…。
隆明
仕事から帰ったら、もっと話聞くよ。昼間も不安になったら、連絡して。
美子
うん。
隆明
ひとりで、わーってならない?
美子
ならない。
隆明
ほんとに?
美子
暑いから、みんなイライラしてるのかな。
隆明
暑くても、マスクして、今はとにかく生き延びなきゃね。
美子
今日も気をつけてね。
隆明
その態勢、しんどくならない?
美子
大丈夫。
隆明
無理しないでね。
美子
どうなっちゃうんですかねぇー…。
隆明
何が。
美子
人間。
隆明
人間?
美子
人間の対立。
隆明
どうですかね、朝顔さん。
美子
朝顔が嫌いな人もいるかもしれない。それも勝手な偏見で。
自分達が朝顔に何をしたか気にも留めないで。
朝顔は、こっちの向日葵と同じ花なのに。
隆明
朝顔、嫌われてるの。
美子
朝顔も、一方的に嫌われたら面白くないでしょ。朝顔こそ、言い分がある。
遠い場所から、それぞれの庭に勝手に連れて来られて。それは横暴でしょ。
隆明
横暴だって、思わない人もいるんじゃない?
美子
え、思わない人?
隆明
朝顔がどうしてそんなに嫌われてるのか分からないから、なんとも。
美子
私だって、嫌ってる人の心理なんて分からないよ。
隆明
理由もなく、嫌ってるってこと?
美子
誰かを嫌えば、優越感を感じるとか?
隆明
なんの優越感?
美子
自分の中にある卑小感を見ないようにして、朝顔より優れてると思い込んでるのかな。
隆明
とんだ尊大野郎じゃない。
美子
本当にね。
隆明
これぐらい水あげたら、朝顔喜んでると思う?
美子
どうですかね、朝顔さん。
隆明
返答ありますか。
美子
夜まで、生き延びられるみたいです。
隆明
俺も夜まで生き延びて、帰って来るから。
美子
仕事、しんどくない? 大丈夫?
隆明
マスク?
美子
父としての責任感で、仕事しんどくなってない?
隆明
美子だって、母としての責任感で、ひとりでしんどくならない?
美子
私はつわりで、体がしんどいだけ。
隆明
ほら、そろそろ部屋に入ろう。
美子
生き延びなきゃね。
隆明
ただ生き延びなきゃね。
隆明が美子のお腹を大事そうに触っている。