1278話(2020年9月26日 ON AIR)

「好きなのに・・・」

作・嘉納みなこ
出演・のたにかな子
藤井颯太郎
激動のクラシック音楽が流れる。場所は高級レストラン「メタモルフォーゼ」。
はるか
えっ?朔太郎さん、今なんとおっしゃいました?
朔太郎
ですから・・・破談にしていただきたいと。
はるか
・・・ご冗談、
朔太郎
冗談じゃありません。
はるか
信じられませんわ。だって、私となら何があっても生きてゆけると・・・!
あの言葉は偽りだったのですか?
朔太郎
失礼します!(立ち上がり、去ろうとする)
はるか
待って!(朔太郎の手を掴む)涙・・・!
朔太郎
(自分の頬を零れ落ちる涙に気が付く)はっ。
はるか
朔太郎さん、本当のことをおっしゃってください。何があったのですか?
朔太郎
・・・本当のことを言えば、あなたに嫌われてしまう。
はるか
私の愛がそんなに軽いものだとお思いですか!!
朔太郎
はるかさん・・・!では申し上げます。・・・実は僕は・・・カメムシなのです。
はるか
・・・は?
朔太郎
(ゆっくり言う)じつは、ぼくは、
はるか
いえ、ちゃんと聞こえはしました。
朔太郎
よかった。
はるか
・・・カメムシ?
朔太郎
はい。
はるか
人間に見えますが。
朔太郎
前世です。前世がカメムシなのです。
はるか
・・・えっと、
朔太郎
嫌いになったでしょう。
はるか
えっ。
朔太郎
前世がカメムシだった男なんか、願い下げですよね。
はるか
待ってください。まだそこまでついていけてないんです。
朔太郎
ああ。
はるか
前世が、カメムシだったと。
朔太郎
はい。昔から不思議に思っていたんです。
夢の中で僕は、なぜだか秋口に洗濯物に引っ付いている。
そして僕を見つけた人間は一様に嫌な顔をし、ベランダで僕をそっと追い払う。
はるか
カメムシだわ。
朔太郎
そして昨夜の夢。僕はなぜだかビンに入っていた。
そして人間が、蓋を開けて僕をつついた。僕は何かを発射した。
すると、その匂いで僕自身が死んでしまった。
はるか
カメムシだわ。
朔太郎
そして気が付くと神様がいて、来世は何になりたいかと聞いてきたので、
僕は人間と答え・・・もうわかったでしょう。
はるか
なるほど・・・。
でも、その、今現在人間でいらっしゃるんだから、関係ないんじゃありません?
朔太郎
あのね、前世がカメムシってことは、
いつカメムシに変身するかわからないってことなんですよ!!
はるか
そんなことあります?
朔太郎
あるんだブブ・・・!
はるか
ブブ?
朔太郎
あれ?僕は何をブブ。ブブブブ。
はるか
なんだか、カメムシの羽音のような。
朔太郎
もうか。
はるか
えっ。
朔太郎
もう変身してしまブーン。
はるか
ウソでしょ?
朔太郎
あああ・・・。はるかさん、僕はどうしたらいいんだブブ。
はるか
しっかりして。
朔太郎
怖い。僕は、カメムシになったらどうブブブ、ブッブブッブ。
はるか
(言ってることが)わからない。
朔太郎
ああ、愛してほしいはるかさん、僕がカメムブブブーブ、ブブブッブーン。
はるか
なんとなくわかったわ。
私、あなたがカメムシになっても、愛せるかどうか、やってみる!
朔太郎
たのブブブ!!!うっ!!あああ~!
朔太郎、カメムシに変身する(ブウン、とかいう音、する?)
はるか
カメムシ!!
客席から、「えっ?」「男が、カメムシに・・・」「きゃー!」などの声が聞こえる。
はるか
だい、大丈夫、これは、朔太郎さん、これは、朔太郎さん・・・!す、すきよ・・・。
朔太郎
(思念の声)はるかさん、こんな僕でも君は!大好きだよ!
朔太郎カメムシ、はるかに向かって飛んでくる。
はるか
やだ、カメムシ!!
はるか、カメムシを思わずつぶしてしまう。
はるか
あっ、しまった!!朔太郎さん!・・・クサっ!!カメムシ、クサっ!!
・・・まあ、カメムシじゃ、結局無理か・・・。
終わり。