1280話(2020年10月10日 ON AIR)

「じれったい暮らし」

作・たみお
出演・のたにかな子
藤井颯太郎
ポツポツと雨が降り出した。
ザーと強くなって、雷も聞こえてきた。
窓辺に立ちじっと外を見つめる男。
暖かいコーヒーを飲みながら、男の横顔をみる女。
どしたの。
向かいの家の・・・お布団が干しっぱなしなんだ。
え。また。
あー・・・。ひどい。掛け布団まで、ビショビショだ。
取り入れにこないねえ。お仕事かな。
うーん・・・。
ざー。
あー、あのお布団、取り入れたい。焦ったい。
仕方ないよ、こればっかりは。
僕にくれないかな、向かいの家のお布団を取り入れる権利。
うん?
雨降ったら、お布団を取り入れるんだ。そのために家の鍵を預かるの。
えぇ。
だって、お向かいさん、毎日お布団を干してるだろ。
お向かいさんは、フカフカのお布団が好きなんだよ。
仕事から帰ったら、疲れた体をフカフカのお布団に包んで寝るのが
お向かいさんの幸福なんだよ。
僕らはそれを知っていながら、お向かいさんの幸福が、
雨に濡れていくのをただ見ている。
僕らは、見ているだけで、何もできないんだ。
違うかもしれないよ。
何が違うの。お布団を干すのにほかになんの理由があるの。
何かの合図かもしれない。
合図?お布団を干すことで伝えられる合図?
例えばよ、シーツの色が赤色のときは、いよいよ、とか。
えっ。お向かいさんのシーツが赤色だった時はないよ。大概水色だよ。
うん。だから、シーツの色が赤色になったら、いよいよ、なのよ。
何がいよいよなの。
わかんないよ、そんなの。
お向かいさんは何者設定なの。
わかんないよ、そんなのー。全然喋ったことないもん。
確かに。喋ったことない。
ね。
雨、早く止んだら良いな。
うん。
雨は続いている。
ね。
ん?
やっぱりやらない? 結婚のご挨拶。
え、なんで。
一緒に暮らして長いから、なんとなーくそのままだし、
別に、報告して回ることでもないのかなーって思ってたけど、、
御近所さんにだけでも、チラッとご挨拶しとこうよ。
お隣さんと、お向かいさんと。
あ。
鍵預かる、までは行かなくても、
大変でしたね、くらい言えたら良いじゃん。
あ、うん、そうしよ。うん。
終わり。