1290話(2020年12月19日 ON AIR)
「同棲スポーツマンシップ」
作・
福谷圭祐
出演・
東千紗都
藤井颯太郎
女
ただいまー。
男
おかえり。
女
はー、疲れた。
女、水道を出し、手を洗う。
女
なー、今日休みやったんやろ?
男
おん。
女
洗い物くらい、しといてくれたら嬉しいのに。
男
へ? なんで?
女
なんでって、時間あったやろ?
男
あったけど。
女
ほんならピャピャっとやっといてーや。こんだけ溜まってんねんから。
男
いやでも。それはリオの役割やん。
女
……はあ?
男
え、どういうこと? 俺の役割に変更するってこと?
女
なにがよ?
男
同棲するとき最初に決めたやん。
ゴミ出しとか風呂洗いとか洗濯は俺で、キッチン関係はリオがやるって。
女
いやだから、やっといてくれたら嬉しいのに、ってゆっただけやん。
男
おん。
女
なんなん?
男
え、なんで怒ってんの?
女
なんか歯向かってきたから。
男
いやいやいや。ルールを変えるんやったら、ルールを変えるでちゃんと話そうや。
女
ルールとかちゃうやん。優しさの、気遣いの話やん。
男
いやでも、キッチンはリオの領域って決めたんやから、
俺が勝手にそこに手を出すのは違うくない?
女
違うくない、洗い物してくれたら嬉しいってゆってるだけやん。
男
だから洗い方とかあるやろ?
女
そんなんないわ。
男
だから、泡が残ってるとか、そういうのでまた揉めるやん。
だから、責任の所在を明らかにしておこうってことで、最初に決めたんやん。
俺かてアレやで? 洗濯物とかやっといてくれたら嬉しいけど、
女
めっちゃ喋るやん。
男
洗濯物とかやっといてくれたら嬉しいけど、
畳み方とか、なおす場所にオリジナリティ出されたら困るから、
俺が俺の判断のもと、やってるんやん。
女
なに、どういうこと?
男
だから、リオがやってくれてるときあるやん、洗濯。
女
うん。
男
そんとき、ちょっとリオのオリジナリティが出てるやん。
女
え、じゃあ、嫌やったんや? あたしが洗濯するの。
男
嫌っていうかだから、
女
うっとうしいって思ってたんや?
男
待てって。
女
あたしはそんなん思わんわ。洗い物してくれたら、
もしヒサヨシがお皿割ったとしても、あたしはありがとうとしか絶対思えへん。
男
お前めちゃめちゃ嘘やんけ。
女
嘘ちゃうもん。
男
割ったら怒るって。その、嘘を起点とする論理展開はずるいわ。
女
え、もうなんなん? なんで、ちょっと洗い物しておいて欲しいってゆっただけでこんなことになんの?
男
向き合ってるからやろ!!
女
(驚いて)……なによ。
男
……洗い物しておいてほしいって言われて、「わかった、ごめんなー」ってゆうのは簡単やで?
でもそうじゃないやん。そんな上辺だけのコミュニケーションでは うまくいかんこともあるから、同棲するうえで、俺はルールを決めたいってゆったんやん。
女
あたしがゆってんのは、ルールとかじゃない話やと思うねんけど。
スポーツマンシップとかの話なんじゃないの?
男
ふわっ!! ちょっと待って。それくらった。
女
は?
男
めっちゃくらった。そうか、スポーツマンシップか。
うわ俺やっぱお前のことめちゃくちゃ好きやわ。そういうとこめっちゃ好きやわ。
女
なんやこいつ。
男
お風呂入ってき。洗いもん済ませとくわ。
女
うん。
男
(洗い物をしながら)そうか…。スポーツマンシップか……。
女
あ、ちょっとそのスポンジ使わんといて。
男
おん。……いや、おい、ちょっと待て。
終わり。