ラヴィーナ＆メゾン STORY FOR TWO

ベイエリアのベンチ。
男: ねえ。ねえってば
女: なに？
男: もしかして、怒ってる？
女: 怒ってないよ
男: 嘘だよ。怒ってんじゃん
女: 怒ってないって
男: なんで怒ってるのかわからない
女: 怒らせるようなことしたからじゃないの
男: やっぱ怒ってんじゃん
女: 怒ってるとしたらね
男: え、本当に怒ってないの？
女: 怒ってるよ。私は君に怒ってるよ
男: なんだよ。やっぱり怒ってんじゃん
女: そんな何度も何度も怒ってるのかどうか訊かれたら、怒ってなくても怒るよ
男: 訊く前から怒ってたじゃん
女: 怒ってたけど、我慢しようとしたのに。あーあ。あーあ
男: ねえ。なんで怒ってたの？
女: まだ怒ってるよ
男: え？
女: 今だってまだ怒ってるよ。怒ってたのって過去形にしたから
男: ああ、ごめん
女: まだ怒ってる
男: うん。わかった。まだ怒ってるんだね。なんで？　なんで怒ってるの？
女: なんで私が怒ってるか、なんでわかんないの？
男: わかんないよ。観覧車乗っただけじゃん。降りてからずっとムスッとしてて。
なんで怒ったのか言ってくれないとわかんない
女: 降りたときからじゃないよ
男: じゃあ、いつから？
女: 観覧車の頂上過ぎたときから
男: 頂上？
女: そう
男: 僕、何かした？
女: ううん。何もしてないよ
男: そうだよね。何もしてないよね。何もしてないのに。なんで？
女: 何もしてくれなかったから
男: え？
女: 観覧車の頂上で何もしてくれなかった
男: なに？　わかんない
女: 私さ、夢だったんだよ。夢だったのに何もしてくれなかった。ひどいよ
男: なにが？
女: だってさ、観覧車の頂上で、ほっぺたにチュッてチューされるの、私、夢だったのに。
ずっとされたいなって思ってたのに
男: そう思ってたの、知らなかったから
女: 初めてデートで観覧車に乗ったときって、普通は頂上でチューするんじゃないの？
この世の恋人どうしというものは
男: それも初めて聞いた。普通ってそうなの？
女: 普通がどうとかは関係なくて、頂上でチューしたくならなかったの？
男: ごめん。思い付かなかった。景色ばっかり見てた。夜景ばっかり見てた
女: せっかく二人きりだったのに。頂上だったら、他のゴンドラからも見えないのに
男: もう一回観覧車乗る？
女: うん。また景色ばっかり見てたら許さないからな
終わり。

「たのしみにしてくれてたんだね」