1300話(2021年2月27日 ON AIR)

「夫婦道中ひざくりげ」

作・嘉納みなこ
出演・東千紗都
藤井颯太郎
日本のどこかにある公園。子供たちの笑い声が聞こえる中、
インタビュアーがベンチに座っている仲良さそうな老夫婦に声をかける。
(以下、インタビュアーの声は聞こえませんが、老夫婦がインタビューされているさまです。)
老妻
ああ、こんにちは。・・・ええ。どうぞ。・・・そんなに素敵?このお洋服。やだ。
老夫
若い人に褒められてよかったな、母さん。
老妻
もう、お父さん。・・・ええ、夫婦ですよ。・・・もう、50年になるかしら。
仲良さそうに見える?まあ。
老夫
愛してるよ。
老妻
もう。・・・まあ、そうなの。大学で、仲のいい夫婦の秘訣を研究してらっしゃるの。
老夫
我々でお役に立てますかどうか。いや、いいですよ、もちろん。
老妻
ええ。
老夫
・・・ああ。私はね、ずっと看護師をしておりましてね、
・・・ビンゴ!この人は入院患者だったんですよ。
老妻
盲腸でね。
老夫
それでまあ、結婚いたしまして、子供も二人できたんですが、てんやわんやな生活でした。
・・・まあ、二人で残り超えた、というよりは、勝手に時がたっておった感じです。
・・・夫婦の危機?そうですなあ・・・(老妻に)何かあったかな?
老妻
ほら、あれですよ、あなたが女に・・・
老夫
ああ。あれは40になったころでしたか。ある若い女に夢中になったことがありましてな。
それを皮切りに、もう、いろんな女が気になりだしました。
心の中に急におっさんが出てきた感じです。そのおっさんが私に言うんですな。
「若い女っていいな。」と。不思議ですなあ、自分にも若い女だったころはあったはずなのに。
老妻
あ、この人ね、女なのよ。
老夫
実はおばあちゃんなんです。
老妻
そうよね、ビックリするわよねえ。それで、私が、おじいちゃんなの。
ごめんなさいね、驚かせて。
老夫・老妻  (笑う)
老夫
それから、心の中のおっさんはだんだん大きくなっていきましてね、
仕事中にもでてくるんですよ。それまで結構セクハラされてたんですけどね、
どこかにおっさんを感じるんでしょう、ピタっとなくなりました。
おっさんはおっさんに欲情しない、そういうことでしょうな。
老妻
最初はいやでしたよ。妻がおっさんになったんですからね。
でも、だったら、私も心におばさんを飼ってみようかなって。
でも、それよりは、お姉さんを飼う方が楽しそうだと思って、そうしてみたの。
そしたらね、チョコレートとか、スコーンとかが、キラキラ輝いて見え始めたの。
ああ、若い女の子って、こんな世界に生きてるのねってびっくりしたわ。
それからすっかりお姉ちゃんなの。
老夫
私も、その心の中のお姉ちゃんに欲情しましてね、それで今でも仲がいいんですよ。
あっと言う間に50年たちました。心の性別も変わりました。
人生、思ったようにはいかんもんですが、楽しいもんです。
老妻
生まれ変わったらまた夫婦になりたいか?・・・それは、せっかくだから別の人がいいわ。
老夫
私も同意見です。せっかくなら、いろんなケーキを試したいもんですからな!
老夫・老妻、笑っている。
終わり。