1301話(2021年3月6日 ON AIR)

「やがていつかはライブラリー」

作・福谷圭祐
出演・藤井颯太郎
中筋捺喜(うさぎの喘ギ)
少女
すごい。ここにある本は、すべて恋愛小説なの?
司書
そうだね。すべて恋愛に関係するものだけど、小説だけじゃない。
ドキュメンタリーや参考書、歴史本や絵本、向こうには楽譜なんかも並べているよ。
少女
楽譜? 音楽ってこと?
司書
そう。あっちに視聴コーナーがあるだろう。そこで聞くことができる。
音楽だけじゃなくて、脚本もあるんだ。いわゆるラジオドラマってやつ。
少女
恋愛に関する本しかないって聞いていたから、てっきりもっと小さい建物だと思っていたわ。
たった一つのテーマで、こんなにもたくさん広がるなんて。
司書
僕も参ってるんだ。もし興味があれば、仕分けを手伝ってくれないかな。
少女
仕分け? 十分キレイに並べられていると思うけど。
司書
いや、恋愛にもいろいろあってね。特に小説のコーナーが大変で。
ラブロマンスもラブサスペンスもラブコメディも、全部ごちゃ混ぜになってしまってるんだよ。
少女
なるほど。楽しい恋もあれば、悲劇的な恋もあるし、三角関係や不倫もあるわね。
司書
ほら、ここなんか。これは男子高校生が野球と恋愛の両立に悩む話なんだけど、
その隣にあるのは、既婚者の男性と不倫をするバツイチ女性の話なんだ。
少女
すごい、同じタイトルじゃない。「セカンド・エスケープ」。
司書
笑えるだろ。間違える人が後を絶たない。
少女
そう思って眺めると、あいうえお順が単なるランダムに見えてくるわね。
司書
気になった本を読んだ後は、そのジャンルを僕に教えてくれると助かる。
少女
わかったわ。だけど、どういうジャンルで伝えるのが正解かしら。
例えば、初恋で、不倫で、同性愛の、歳の差カップルの片方が、記憶喪失になっていたら?
司書
初恋モノでもあるし、不倫モノでもあるし、同性愛モノでもあるし、歳の差モノでもあるな。
どうやらサスペンスやミステリーの予感もする。
少女
そんなの、カテゴリで分けるほうがバカバカしいんじゃない?
司書
たしかにそうかもしれない。うーん。どうしようかな。
少女
ここは、恋愛に関する創作物の遺跡みたいなものでしょう。
まるで地層みたいに、単純に古い作品から順に並べたらどうかしら。
きっとどこかに紫式部の「源氏物語」も置いてあるんでしょ。古いモノから新しいモノへ。
恋愛の価値観が変遷していく様子もわかるし、作者やタイトルで分けるよりもきっと面白いわ。
司書
シンプルだけど盲点だった。さっそく取り掛かろう。まずは簡単なところで……。
視聴コーナーのラジオドラマCDを、新しい順に並べようか。あれが一番少ない。
少女
これね。「Story for two」。結構たくさんあるじゃない。
司書
なに、たったの二十五年分だよ。
少女
あたしが生きた倍じゃないの。ね、聞きながら整理してもいい?
司書
日が暮れちゃうけど、せっかくだからね。もちろん。
少女
あたしの彼氏の大介君がね、もうすぐ転校しちゃうの。
遠距離恋愛になるんだけど、そんなあたしにぴったりの作品が見つからないかしら。
司書
これだけあるんだ、きっと見つかるよ。
少女
ほんと?
司書
あーあー、ちょっと、散らかさないで。
少女
それにしても多いわね。なにをそんなに乳繰り合うことがあるんだか。
司書
僕もそう思っていたよ。
二人はCDを整理し続ける。
終わり。