ラヴィーナ STORY FOR TWO
クリスマススペシャル1999
“プロポーズ”
第3話(1999年12月23日 ON AIR)
「雨の日のタクシードライバー」
作・
四夜原 茂
出演
男
加三 修(TVNTRHYTHM)
女
岡 知美(芝居屋坂道ストア)
運転手
腹筋善之助
女
雪になればよかったのに。
男
ああ。そうだねぇ。・・・運転手さん、最終の新幹線9時すぎだと思うんだけど、間に合うかな?
運転手
えーと、東京ですか?
男
ええ。
運転手
普通の日やったら間に合うんやけど、今日はどうかなぁ。
男
雨だと渋滞してる?
運転手
ええ。それに今日は、若い人、みんな車で出かけてるから・・・。
女
いいじゃないの。泊まっていけば?
男
そういうわけにはいかないんだよ。明日、仕事だし。
女
始発の新幹線で帰れば間に合うんじゃないの?
男
朝6時だろ?オレ朝弱いからダメだよ。
女
まあ・・・仕方ないわよね。仕事なんだから。
男
今度、正月にまた会おうよ。
女
うん。・・・でも、今日のお店は、はずれだったわね。
男
ああ。あんなにたくさん客が来るとは知らなかったよ。
女
カップルばっかりだったし、私達が店を出る時にまだ10人くらい待ってたでしょ。
男
雑誌か何かに紹介されちゃったんじゃないかな。僕が昔、行ってた時は、あんなじゃなかったけどなぁ。
女
みんなティファニィの紙バッグ持ってたりして、ちょっと遅れてるわよねぇ。
男
うん。
女
金太郎アメみたい。
男
金太郎アメ?
女
どこで切っても金太郎アメ。知らない?
男
なに、それ?
女
知らないんなら いいわ。
男
そのアメ、おいしいの?
女
うーん・・・。
運転手
あれは、あんまりうまくないですよ。
女
そうでしょうねぇ。私、たべたことないけど、あんまりおいしそうじゃないわね。
運転手
妙に甘いし、あの赤い色。着色料とかいっばい使ってるんちゃいますかね。体に悪そうですしょ。・・・・・・あれ・・・・・・こんな所から・・・。
女
渋滞?
運転手
はぁ・・・まずいなぁ。こんな所から混んでるようやったら、この先、全然動いてへんのちゃうかな。
男
間に合わないかな?困ったなぁ。
運転手
ちょっと回り道になるけど、ぬけ道、行ってみましょうか?
男
ええ、お願いします。
運転手
これかな?たしか、これを左に入って・・・。
女
うわー、すごい細い道。
運転手
みんなで同じ道、走ったら、そりゃ渋滞してもうて大変なんですよね。細くてもええからいろんな道を走った方がいい時もあります。
女
ふうん。いいこと言うじゃないの、運転手さん。
運転手
あ。そうですか?
女
なんか私達みたい。
男
どういうこと?
女
みんなと同じことしないで、細い道をえらんで走ってる。
男
そうかなぁ。
女
そうよ。おかげで大変な事も多いけどね。
男
まあ、大変な事は多いよなぁ。まずお金だろ?それから時間のやりくりとか・・・。
運転手
あらららら・・・。
ブレーキ。
ドサリとカバンが床に落ちる。
女
どうしたの?
運転手
すみません。これ、えらいこっちゃ、行き止まりですわ。
男
ああ、ほんとだ。
運転手
いや、でも、だいじょうぶです。一本まちがえて入っただけですわ。ちょっとバックして入りなおしたら、あとは、ビューッと新大阪に着くと思いますよ。
男
ビューッとね・・・。
車、バックする。
運転手
すみませんでした。あ、カバン落ちましたか?
男
ああ、だいじょうぶです。
女
あれ?なにかしら、これ・・・・・・。プレゼント用のリボンがついてる・・・ティファニーの。
男
あ。
女
あ。
男
あ。それは、あの・・・。
女
アハハハ・・・。なんだ、そういうことだったの、アハハハハ・・・。
男
あ。・・・ハハハ・・・。
女
きっとあなた、さっきのレストランで出しそびれたんでしょ。回りのカップル達とおんなじもの取り出すのがはずかしくて。
男
まあ、・・・ね。
女
でも、ずるいわよ。今年は、そういうことやめようって決めたじゃないの。交換するプレゼントをやめて、あなたの交通費にしようって。
男
ああ。そうだったね。
女
だから私、何も買ってないのよ。仕方ないから、これでどう?
男
え?
女
これ。
キスの音。「チュッ」っと。
男
ちょっと、おい。運転手さんがいるんだぞ。
運転手
ええ、別に気になりませんから。さっき乗せたカップルなんか、すごかったですよ。ずうーっと、もう、うわーとディープなもの、すごい・・・
女
ふうん。・・・じゃ、さっそく開けてみようかな。
男
え?ここで?
女
ここで開けないでどこで開けるのよ。あなた新大阪から帰っちゃうんでしょ。
男
うん。それは、そうなんだけど・・・。
つつみ紙を開ける音。
女
お。このパックは貴金属が入ってるやつだわ。・・・・・・これ、指輪じゃないの?
男
そう。
女
プラチナにダイヤが3個ついてる。
男
そう。
女
高かったでしょう。
男
うん。
女
・・・すごく、いいわ。ほらほら、私の考えてたイメージにぴったりよ。でも、ちょっとサイズが大きいかな、ま、サイズは後で直してもらえばいっか。
男
ケイタイが鳴る。ピロピロピロと。
女
電話。あなたのでしょ。
男
うん。(ピッ)はい。もしもし、・・・・・・ああ、また後で電話するよ。新幹線の中から。・・・・・・今?まだ新大阪に着いていないから・・・うん、じゃ。
女
会社の人?
男
うん。会社の人。
女
たいへんねぇ。
男
本当。たいへんなんだよ。
女
で?
男
・・・「で」って?
女
何かあるんでしょう?私に何か話があるんじゃないの。
男
うん。・・・実は、話があるんだよ。
女
そうだと思った。
男
さっき、レストランで話そうと思ってたんだけど、まわりがうるさくてさ。そういう気になれなかったんだよ。
女
うん。それはそうね。
男
あのね・・・。
運転手
あー!!
ブレーキ。雨の音、はげしくなる。
男
・・・・・・びっくりしたー。
運転手
すみません。
女
ここどこなの?
運転手
はあ、どこなんでしょうか・・・。
男
ええ?
女
その、前に見えるのは海?
運転手
川じゃないかと思うんやけど。猪奈川。でも橋がないんです。
女
道にまよったの?
運転手
はい。細い道をなんとなく走っているうちにどうも、抜け道を見失なったみたいで、・・・すんません。間に合いそうにないですね、新幹線。
女
仕方ないんじゃない。私の部屋に泊まったら?
男
いや、どうしても今日中に帰らなくちゃならないんだよ。
女
だって無理よ。明日の始発に乗るしかないんじゃないの?私、ちゃんと起こしてあげるからさぁ。
男
だめなんだよ、明日じゃあ。
運転手
あ~お客さん。本当にすみませんでした。世の中にはうまくいかない事も多いんですよねぇ。気をとり直して、次のことを考えましょうか?
女
そうよ。どうしようもない事もあるの。きっぱりとあきらめて、気持ちを切りかえるのよ。
男
あきらめて・・・?
女
そう。あきらめて。
運転手
次善の策って言うんですか?あとから考えてみたら、あれをあきらめて、これにしてよかったなぁって思えますよ。
男
いったい何の話をしてるんですか?
運転手
え、いや、はい、私は今日の仕事は、お客さん達で終りにします。行きましょうか、東京まで。
女
・・・え?!
運転手
もちろん、メーターはたおさずに。今日は、お二人にとって特別な日になりそうやし、私からのプレゼントってことでどうですか?
女
いいんですか?
運転手
今から出たら明るくなる前に着きますわ。きっと、ええ思い出になりますよ。
女
すごいわ。行ってもらいましょうよ。
男
う、うん。そうだな、行ってくれますか?
運転手
ええ。じゃ、ゆっくりいろんな話をして下さい。何なら私がどうやって今の妻といっしょになったか話しましょうか?
女
何かあったんですね。
運転手
ええ、あったんですよ。大事件がね。
男
大事件?
運転手
でも、この話、はじめると、静岡あたりまで行っちゃうんちゃうかな。いいですか?
男
ええ、聞かせて下さい。
運転手
はい。大事件のはじまりは、小さな誤解だったんですよ。あれは、十年前の冬・・・。
車、スタートし、走り去る。
おわり